十月の読書記録

「ほかの人が死ぬということと、ぼくが死ぬということは、ぜんぜんちがう。それはもうぜったいにちがうんだ。ほかの人が死ぬとき、ぼくはまだ生きていて、死ぬということを外から見ている。でもぼくが死ぬときはそうじゃない。ぼくが死んだあとの世界はもう世界じゃない。世界はそこで終わる」

                   ――『ペンギン・ハイウェイ

 十月某日

 Wi-Fi回線の調子が狂ってしまった。部屋にあるPCのうち、メインのPCのみが繋がらない。「もうだめだぁ~」と、部屋に寝転ぶ。

 買ったばかりなのになぁ、と思い悩んでいると、積ん読の中にいるオリエント急行の殺人」アガサ・クリスティー)が目に入ったので読む。すらすらと物語が進んでいく。ポアロが口髭を濡らさないように紅茶を飲むところで、「髭って飲み物を飲むと濡れるの…?」と世の謎に気付いてしまう。男性はなぜ飲食の度に濡らしてまで髭を伸ばすのだろう。うーん。

 ポアロが出てくるアガサ・クリスティーの小説は、2冊も読んだことがあったのに、内容を全く覚えていなかった。部屋に積み重なる書物の中のどこかにはあるのだろうが、見つけ出すのが余りに億劫で、そのままにした。

 朝、ペンギン・ハイウェイ森見登美彦)のTVCMを見てふと思い出し、買っておいた原作の小説を手に取る。「映画を見る前に小説を読んでおこう」と思い買ったのだが、結局読まずに放映期間も終わってしまった(残念)。不思議な湿度感がずっと続くような作品だった。本の角を間違って濡らしてしまったような独特の湿気を感じながら、読んだ。少年の友人であるウチダくんの研究内容が面白い。

  次の日、早々に用事が済んだので駅前の散策を始めた。街中には、いくら道路に人がわんさかいたとしても、どういう訳だかいつも閑古鳥が鳴いている店というのがある。わたしはそういった店を探すのが好きだ。今日鞄に入っている本は「ウォーク・イン・クローゼット」(綿矢りさ)。カバーイラストのキュートさに惹かれて思わず手に取った。綿矢りささんの作品を読むのはこれが初めてになる。わくわく。
 週末の若者、というキラキラしたパワーから逃げるように、フロアの端にあるこれまた閑古鳥の気配が色濃く感じられるカフェへ忍び込む(堂々と)。横文字で長い名前の健康そうな紅茶を頼み、席に着くなりいそいそと本を開いた。先に後ろの方にある解説(?)を読んでから、本文へ。
 表題作「ウォーク・イン・クローゼット」の主人公は、休日を捧げるほど洗濯を愛しているのだが、クリーニングに預けるよりも服を痛ませずに洗濯ができるという。羨ましい。読み終えたあと、思わず洗濯の仕方を検索してみた。が、やっぱりそんな人は稀らしい。それっぽい記事はヒットしなかった(今度またチャレンジしてみよう!)。
 それにしても、こういった雰囲気の作品は久しぶりに読んだ気がする。「盲目的な恋と友情」(辻村深月)みたいな。構成としてはフィクションなのだけれど、主人公たちの人間らしさがどうもアンマッチで不思議な魅力がある。すきだー。
 気付けば、ゆっくりゆっくり飲んでいた紅茶がもうすっかり冷めてしまっていた。ずいぶんと長居してしまっていたようだ。本を閉じる。近くの書店に寄り、「館島」(東川篤哉)を買う。本を開いた瞬間、文字の小ささに怯む。少し気合いを入れ直して、えいっと開いて読む。と、ぐんぐんと文章が頭に入ってきた。おもしろい。主人公が真面目であったり頭が良かったりしない普通の男性なのがまた良い。
 東川篤哉さんと言えば謎解きはディナーのあとでが有名なのに、わたしは未だ読んだことがない。読もう。著者の代表作はやっぱり読むべきだなぁ、と思いながら、その日は寝た。

 2018.11.09